妊娠後期に旅行して良いの?
このページの監修について
妊婦さんに正しい知識を持って安全な旅行を楽しんで頂くため、婦人科の専門医である成城松村クリニック院長 松村圭子先生に監修して頂いています。
妊娠8か月を過ぎる妊娠後期は、出産の準備も始める時期でもあります。この時期はお腹が張ることが多くなり、長時間立ち続けることがつらい、という人も多いです。この時期に旅行しようかなと考えている人、残念ながらそれはオススメできません。
妊娠後期の旅行が、母体と赤ちゃんにあたえる影響はどのようなものか、一緒に考えてみましょう。
妊娠後期の旅行は、リスクと隣り合わせ
妊娠後期の旅行は、非常にリスクがあります。具体的には「いつ出産が始まるか分からない」「早産の可能性が高まる」「身体が重くて疲れやすくなる」といったもの。安全に元気な赤ちゃんを産むためにも、旅行は控えてください。
いつ破水するか分からない
産休に入った妊婦さんの中には、出産予定の6週間前の時期をチャンスとばかりに、旅行を計画する人もいます。しかし、産休に入るということは、妊娠9か月。ほとんど臨月です。臨月に入れば、陣痛や破水がいつ起きてもおかしくありません。
お産が近づくサインとして、おしるしがあったり、前駆陣痛という陣痛の予行演習のような痛みが走ったりすることがあります。また、陣痛が起きる前に、破水するパターンもあります(前期破水)。破水は尿漏れ程度の少量のこともあれば、大量に出る場合もあります。そして、破水が刺激となり、陣痛が起きることもあります。
破水後は赤ちゃんの細菌感染が心配されるため、量の多少に関わらず、すぐ産院に連絡しましょう。
もし旅先で破水してしまったら、近場の病院で駆け込み出産となります。産婦人科が少ない現状で、受け入れをしてくれる病院ばかりではありません。たらい回しにされることも。
そのため、妊娠後期の旅行はおすすめできないのです。
早産のリスクがある
妊娠22週から、予定日前3週間に満たない、37週未満の間に出産が起きることを「早産」と言います。妊娠後期の早産の原因はいろいろとあります。たとえば、疲労やストレスが重なった時にも起こりやすくなります。旅行で環境が変わって「体調がすぐれない」と思った時には、すぐに病院を受診し、安静にすることが第一となります。適切に処置すれば、多くの場合、赤ちゃんが十分大きくなるまで、お腹の中で過ごせるからです。
身体が重くて疲れやすくなる
妊娠後期になると、お腹がせり出すため足元が見えにくくなります。大きいお腹で長時間同じ姿勢は負担が掛かりますし、運転も危険です。旅行ということで重い荷物を持つと、お腹に力が入ってしまい負担が掛かることも。心臓や肺が圧迫され、動悸や息切れといった症状、脚の負担では、脚の付け根が痛んだり、むくんだり、つったりします。急な階段の上り下りや無理な運動も刺激になり、早産の可能性を高めるかもしれません。この時期の旅行はやめて、ゆっくりと過ごすことが大切です。
腰痛・貧血・動悸・不眠に悩まされやすい
妊娠後期は大きなお腹を抱えているため、様々な不調が現れます。運動不足になりがちで体重が増えてしまい、腰痛を抱える人もいます。また、妊娠すると赤ちゃんのために鉄分が送られるため、貧血になりやすいです。子宮がみぞおちあたりまで上がり、心臓や肺も圧迫されて、動悸や息切れも。さらに、横になったときに子宮が下大静脈を圧迫し、血圧が下がってしまうことがあります。
こういった不調は一部分であり、妊婦さんによってはもっと辛いこともあります。無理せず安静に過ごしましょう。
どうしても旅行する場合に気を付けるべきところは?
そのことを覚悟の上で、どうしても今しか旅行できない、旅行に行きたい!という人は、せめて少しでも安全に旅行ができるよう、気を付けるべき点や注意すべき点を紹介します。
ゆったりとした旅行プランにする
せっかくの旅行だからと、分刻みのようなプランを立てるのはNG。妊婦さんの身体に起こる「もしも」に備えて、ゆったりとしたプランを立てるのが鉄則です。
妊娠後期は少しの刺激でも、お腹の張りが出やすい状態。普段なら問題ない車での移動や歩きでも、不規則な張りが出る可能性があります。30分~1時間に1回は、休憩を取れるようなプランが必要になります。
旅行をするなら、何かあった時でもかかりつけの医師にすぐに診てもらえるように、近場の旅行を考えましょう。時間に余裕を持った旅行プランですと安心です。
健康保険証、検査結果のコピー、母子健康手帳を持ち歩くように
健康保険証は持っていないと、救急などで搬送された病院の費用が実費になってしまいます。ただでさえ旅行で出費が多いのに…ということになりかねません。
妊婦健診の検査結果のコピーを持っていると、どんな検査を受けて、どんな結果が出たのか、問題があるのかなどを、お医者さんが把握できるため、より適切な処置に繋がります。
母子手帳は、検査結果のコピーと同様、妊娠の経過などを記した大事な記録です。母子手帳からの情報をもとに治療をするので、いざという時のために、これら3点は用意しておきましょう。
旅行は、かかりつけの病院に行ける距離で
旅行に行くなら、せめて近場のスポットにしましょう。もし何かあった場合も、かかりつけの病院に行けるくらいの距離が望ましいです。
また、長時間同じ姿勢で乗り物に乗らなくて済むというメリットもあります。自家用車であれば、横になったり、自分のペースでこまめに休憩を挟んだりすることもできます。ただし、渋滞に巻き込まれ、車内で調子がおかしくなっても、救急車すら来ることができない状況になるという最悪の想定は頭の片隅に入れてください。
電車は時間のスケジュールが立てやすいですが、乗り換え時の階段の上り下りや、ラッシュ時や行楽時の人混みなどに細心の注意を払う必要があります。
旅行先の救急病院や産婦人科をチェック
旅行先が決まったら、早産の可能性も考慮し、旅先での産院を確認しておきましょう。
旅行先や宿周辺で、行動範囲内にある病院や産院はチェックしておいた方がいいです。地方によっては産婦人科医が少なく、クリニックそのものは車で1分の場所にあるのに、常勤の医者がいないため、車で1時間の場所にある救急病院に運ばれた、という体験談もあります。
病院は、ネットであればすぐに探せます。その病院の公式ホームページを見て、口コミサイトで口コミを確認しておくと安心です。
また妊婦さんのために、病院と提携している宿もあります。そういう宿を選べば、もしもの時も慌てずに済みます。
妊娠後期はお腹の赤ちゃんと、ゆっくり過ごすことを考えて
妊娠後期はいつ赤ちゃんが産まれてもおかしくない状況です。旅先で不慮のアクシデントに遭い、不幸な結果になってしまったら、悔やんでも悔やみきれないことになります。
どの時期でもそうですが、自分自身の楽しみよりも、よくよくお腹の子を第一に考える必要があります。
リスクが高いので、妊娠後期に旅行することはおススメできません。いっそのこと、出産後に旅行というのはいかがでしょうか。今は赤ちゃん連れでも歓迎の宿がいくつもあり、快適な旅ができるかもしれません。
ただし、赤ちゃんNGのところがあったり、赤ちゃんを産んでからでは、行くことや体験ができない旅行もあったりするので、しっかりと調べてくださいね。
成城松村クリニック 院長 松村圭子 先生
日本産科婦人科学会専門医/専門分野 婦人科
広島大学附属病院等の勤務を経て2010年に「成城松村クリニック」を開院。日本産科婦人科学会に専門医として所属。さまざまな悩みや不安を抱える女性をサポートするため、講演、執筆、TV出演など幅広く活躍中。